Mr.King vs Mr.Prince
六本木の熱気が生んだ蜃気楼みたいだった
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7/6月曜日早朝4時
大雨の河口湖にいた
体感温度は10℃くらいだろうか
7月の湖畔で私は寒さで震えている
本当に去年のようなあの熱い夏が来るのだろうか
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私の心配をよそに梅雨は開けた
2015年東京の夏は当然の如くぽかーんと口を開けてよだれを垂らしながらやってきた
ころころと変わりやすい天気はきしくんがころんころんとバク転を習得をしたせいだろうと都合よく解釈する
むしろ梅雨明けなんて気象庁のおっさんあたりが梅雨開けさせとく?いんじゃね?みたいなノリで決めてるのかもと想像すると私はどの場面でも所詮消費者のゴミクズにしか過ぎないんだと思い知らされる
夏の始まりのねっとりとした湿気がゴミクズジャニオタな私をこの世から隔離したいかのように纏わりつく 何故だか湿気というベールを纏い風に吹かれているとちょっとだけ強くなれる気がした。
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一生彼は私の事なんて知る日はこない 喋る日もこないだろう 一緒にご飯を食べることもなければ 名前を呼ばれる事もない
それでも雑誌を買い、ジャニーズショップで写真を買い、ファンレターを出し、少年倶楽部にきしゆうたくんをたくさん見たいですと私では考えられないほど律儀にメールを送り、激戦のチケットをどうにかし手にしコンサートに足を運びミジンコのような大きさの彼を双眼鏡で覗くというある意味この世の中のコミュニケーションの中で1番意味がないともいえる方法で彼を応援している
意味のない消費は経済の一渦となり私を嘲笑う
やがて愛情の標的は形を変え、彼が写っている写真を片っ端から購入しジャニーズショップの黄色い袋をトートバックに隠し家路に急ぐ。彼の出演する公演のチケットを気が狂ったように増やしああ今日もまた散財してしまったと自己嫌悪になればなるほどツイッターできしくんの可愛さや天才さをつぶやく回数は増える。私は間違ってなんかないだってほらこんなにみんな同意してくれてるじゃないか
なんて惨めで惨めで惨めなんだろう。小説やドラマの世界なんかよりスリルのある最高の趣味じゃないか 歪んだ幼稚な愛情表現はスパイスとすらなってしまう 心地いいよ。離れなくないよきしくん、少しだけそばにいさせてよ。
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私が1番好きなアイドルジャニーズJr.の岸優太くんは”Mr.King vs Mr.Princeというジャニー喜多川氏が15秒で考えたという何とも嘘くさいエピソードを携えトンチキユニット名を背負う一員、且つテレ朝夏祭りサマーステーションの公式サポーターとして連日TVに出まくっていた。
正直六本木のど真ん中に自担の特大タペストリーを掲げられても六本木駅に60枚のキンプリポスター攻撃されても、年に1回、球界選りすぐりのスター選手のみが出場する伝統のオールスターでの試合前のパフォーマンスを見てもいまいちピンと来ない私がいた。
きっと明日不慮の事故で死んだとしても死んだ事に気付かないで生き霊になるくらいに現実を受け入れるブレーカーが完全に落ちてしまっているようだ
Mr.King vs Mr.Princeを上手く言葉にできないままただ夏が過ぎていく。私の向こうにはテレビ朝日にでかでかと掲げられた自担が微笑んでいた
毛利庭園から見る巨大広告
きしくんが籠城に人質にとられた姫に見えてきてしまった私はあまりにひねくれていた きっとキンプリは六本木の猛暑が作り出した蜃気楼のひと夏の幻なんだろうか。
TVにいっぱい出てるとか出てないとかポスターの数とか広告の大きさともう正直どうでもよかった きっと本質はそこではない
彼はきっとしなやかに時に涙を流しながら時には喜びながら不条理な現実を受けいれてここまできたのだろうか 彼がその辿った道に、その表情に、彼の仲間に、喜び泣き笑い私は自分でいられた。
だから胡散くさいユニット名も不条理な現実も受け入れたい。
懐古したっていいと思う。だってそれは今のきしくんの血と骨だから。でもまずは今の彼の空気に触れている汗ばんだ肌を2015年の夏の彼を最初に見てあげたい、見たいと思えるようになった。
今日まで辿ってきた道に首を縦にし過去と現在を讃え正しいと世界の片隅からほんの少しだけ叫びたい。
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7/21
EXシアター六本木に向かう
この日も7/18から始まった六本木ヒルズ夏祭りガムシャラサマーステーションの特別公演(Mr.King vs Mr.Prince)の公演が行われる。
パフォーマンスバトルのVS公演を含めれば1ヶ月の間に約70公演連日行われる事になる。
頭に安い造花を付け自担の名前が入ったハートのサングラスをかけたブラックダイヤのようなドギツイ目をしたジャニオタが夏の間中気取った六本木の景観を壊すに違いないと思うとなぜだか遠足の前日のようなワクワクが止まらなくてテンションがブチ上がる。
午前10:50
負けた。
ペンライト争奪戦という戦いに負けた。私はテレビ朝日一階アトリウムに立ち尽くしていた。
ペンライトは完売だという。諦めきらない私は必死に相棒テラス内を捜索してみるがペンライトはあるわけはなかった右京さんサンキュー。
11時から公演が始まるがはたして間に合うのだろうか。
少し慌てて来た道を戻ろうとするもアトリウム内の一方通行が私を拒む 私のきしくんへの一方通行の間違った愛情表現みたいだった。
六本木ヒルズは迷宮だった。幾度も来ているはずなのにいつも思った方向に出れない。
さすが優太姫を籠城している要塞だ。抜かりない。
10時54分
ようやくヒミツアイテムエレベーターを発見し要塞を抜け出した私は66プラザのドラちゃん達におはようございますのご挨拶をしながら小走りで駆け抜ける。 ドラちゃん達は私を決して馬鹿にしなかった。ありがとう優太のもとに行ってくるよと心の中で最敬礼をする。
うだるような日差しにすっかりホットドリンクになったポカリスエットを口にし生きてるわぁと小声で呟きお気に入りのダッフィさんのタオルで汗を拭きながらポカリの新CMを気取ってみる。
10時57分
焦りつつも電光掲示板を撮ろうとするが撮った瞬間にイカれる掲示板 連日の仕事でのハードワークとペンラ難民と災難続きで電光掲示板にも嫌われメンタルはボロボロだった。
バルコニーという何とも優雅な響きの席におそらく招かざる客の汗まみれの薄汚れた私は席に着く。
ー開演
彼ら6人が登るにはあまりに低く小さく感じるEXシアターのステージがそこにはあった。
バルコニーは王様と王子が民衆を見下すにはピッタリであった 。
優太はディズニー映画の王子さまのような顔をしていた。
私は何故きしくんの事をこんなに好きなのかいつも上手く表現できない。好きな所は星の数だけあるはずなのに
短く切りそろえた髪に、桃のような可愛いらしい顔立ち、その柔らかく繊細な桃を自ら外敵から守るように付いたほどよい筋肉。優太という名前。優しい男の子はたくさんの民衆から歓声を受けメンバーからはいつものようにいじられ誰からも愛されていた。
少しわかった、私はきっときしくんになりたいんだ。
6人は銀河系を何億光年も前から優雅に漂う惑星たちみたいだと思った。EXシアターが窮屈すぎて今にも宇宙に飛び出しそうな惑星達。
おのおのの距離を保ちながら決して交わらない 唯一太陽の周りを回らない月は岩橋玄樹みたいだと思った。
岩橋と平野がステージ上で絡むと銀河系のルールを破ったようないけない凄いパワーが働いて今にもビックバンが起きそうだった。
ジャニーさんがKingとPrinceの間に&ではなくvsを付けたのがこの公演を観て少しだけ分かった気がした。vsがいてくれるおかげで絶妙なバランスを保っていた。
バルコニーから民衆、時に壁に、時に空気にファンサを繰り返すきしくんは、一通りファンサを終えると満足したのか、私の事など当然目にもくれず、ご飯をもらった後の子猫のようにプイっとどっかに行ってしまった
子猫を追いかけるかのように私は8月のチケットを握りしめていた。
月島紗南